dragon image みちのぶのねぐら

広島原爆はキログラム、福島第一原発はトン

Update: 2011-04-03

追記:2011年8月26日の毎日新聞の記事によると、セシウム137の単純比較で広島原爆の168.5個分、ストロンチウム90が約2.4個分、ヨウ素131が約2.5個分だそうです。

まず最初におことわり:私は文系です。足し算とかけ算はできますが、それ以上複雑な計算はできないので、その限りで考察しています。

震災から 3週間と 1日経ちました。これまでの報道から、福島第一原発からの放射能の放出の経路は、空気中に直接、漏水の大きく分けて 2パターンあり得ることがわかりました。それぞれの総量がどのくらいのものなのかはよくわかりません。また、いつ収束するのかもわかりません。まだ水素爆発の防止のための窒素の充填など検討されているようですから、少なくとも、放置していい状態ではないのでしょう。

今回の被害を、広島・長崎の原爆と比較して考えてみる人は多いと思います。中には、核爆発しない限り、原爆ほどの被害にはならないと思っている人もいるようです。しかしながら、チェルノブイリは、広島・長崎の原爆とは桁違いに大きな放射能の被害を広範囲に及ぼしています。例えば、北九州と瀬戸内海沿岸全域に放射能の被害が及んだとするとどうでしょう。私の母の世代に白血病や甲状腺がん等の率の有意な上昇が認められるというようなことになっても不思議ではないのですが、全くそのようなことはありません。周辺地域への放射能の被害の点で、チェルノブイリは、広島・長崎の原爆とは比べものにならないほど悪いものでした。

なぜかというと、核物質の量が全然違うからです。

ネットで検索して比較的簡単に見つかる資料を見るとこうなっています。この資料について細かなことをいうと、「ウラン」と書いているのはウラン235のことのはずなのですが、私自身もめんどうなので、以下、「ウラン」のままとします。

財団法人放射線影響研究所 Q&A よくある質問

チェルノブイリ事故では放射能汚染が深刻でしたが、なぜ原爆の場合にはそれほどでもなかったのでしょうか?

チェルノブイリは燃料全体が 180 トン、ウランは 3,600kg で、そのうち大気に放出された燃料はウランに換算して 200kg くらい、広島の原爆は推定でウランが 25kg くらい。実際に核分裂したのはそのうち 1 kg くらい、とのことです。広島の原爆のウランの重量が「推定」なのは軍事機密で公表されていないからです。核爆弾は、爆発の衝撃が強すぎて、すべてのウランが反応しきる前に吹き飛ばされてしまうらしいです。しかも、高温になるため高く舞い上がります。その一部だけが黒い雨となって地上に落ちてきました。

京都大学原子炉実験所 今中哲二氏の「チェルノブイリ原発事故:何がおきたのか」 http://www.rri.kyoto-u.ac.jp/NSRG/Chernobyl/kek07-1.pdf によると、二酸化ウランの燃料が 194 t で濃縮率が 2% だから、単純計算すると 3,880 kg です。上述の資料と少し違いますが、まあ、いいです。

長崎の原爆は、ウランではなくプルトニウムを使っています。これについて、ネット上の記事には 5kg とか 6kg という記述が見られます。チェルノブイリにも、運転中に生成されたプルトニウムがあっただろうと思うのですが、どのくらい残っていたかとかについてはネット上の日本語の資料は見つけられませんでした。もっとも、見つけたとしても私には理解できないことが書いてある気がします ^^; 上記のウランに換算して 200 kg ってのに入ってるかもしれません。そのようなわけで、以下、ウランだけについて考えます。

広島の原爆に対して、チェルノブイリは、存在していたウランの量で約150倍、核反応して被害を及ぼしたウランの量で約200倍ということになります。

今中哲二氏の資料で紹介されている推計では、「全体で炉心の 10%が“発電所敷地外”に放出された」とのことです。ヨウ素131 が 2 × 10 の 18 乗 ベクレル、すべての放射能の合計で 1.4 × 10 の 19 乗 ベクレルです。

朝日新聞の記事にチェルノブイリと福島第一原発の放射性ヨウ素の放出量の比較が出ています。 http://www.asahi.com/special/10005/TKY201103240465.html

チェルノブイリは 180万テラベクレル つまり、 1.8 × 10 の 18 乗 ベクレルです。これは、上記の今中哲二氏が紹介する試算と同じくらいの値です。それに対して、福島第一原発についての SPEEDI による推計は、3月12日 6:00 〜 3月24日 0:00 つまり 11日と18時間の累計で 3万〜 11万テラベクレルです。チェルノブイリの 1.7 〜 6.1 % ということになります。これを「大気に放出された燃料はウランに換算して 200kg くらい」に強引に当てはめると、ウランに換算して 3.4 〜 12.2 kg になります。放出された放射能という面だけを見ると、広島の原爆とくらべてもいい量になっています。

なお、この情報は 3月25日の時点のものですから、その後の大気中への放出は計算に入っていません。さらに、今、問題になっている地下水や海の汚染も計算に入っているわけ無いと思います。

福島第一原発は次のようになります。

福島第一原子力発電所 設備の概要 http://www.tepco.co.jp/nu/f1-np/intro/outline/outline-j.html

1号機 燃料 二酸化ウラン 69 t 燃料集合体 400本
2号機 燃料 二酸化ウラン 94 t 燃料集合体 548本
3号機 燃料 二酸化ウラン 94 t 燃料集合体 548本

合計 257 t

3号機は MOX 燃料のプルサーマル方式での運転を始めていたはずだけど? うむむ、燃料の総量とかプルサーマルになってからも変わらないのだろうか? http://www.tepco.co.jp/cc/press/10102601-j.html

ウラン235の割合は、ウラン燃料で 3 〜 4 % 、MOX燃料で 1 %、MOX燃料のプルトニウムの割合は 3 〜 4 % とのことです。 http://www.tepco.co.jp/nu/knowledge/cycle/index-j.html

保安院の資料によると 3号機の MOX燃料の割合は 1/3 以下のようです。 http://www.pref.fukushima.jp/nuclear/info/pdf_files/100805-5.pdf

発電量と設備利用率をみたところ 2号機も 3号機も同じです。 http://www.tepco.co.jp/nu/f1-np/data_lib/pdfdata/bk1001-j.pdf

ここで私が細かなことにこだわってもしょうがないので、ウランの濃縮率が 3 % という控えめな仮定で一律に計算することにします。

1号機 ウラン235 : 2,070 kg
2号機 ウラン235 : 2,820 kg
3号機 ウラン235 : 2,820 kg

合計 ウラン235 : 7.7 t

炉内のウラン235 はチェルノブイリの 2倍くらいということになります。単純計算すると、このうち 2 〜 3 % が大気に放出されるとチェルノブイリ級です。しかしながら、東側が海、風向きもどちらかというと西から東へ、というのは割り引いて考えなければなりません。とすると、結局チェルノブイリと同じ 5 % か、もしくはそれ以上大気に放出されると同程度の被害、ということになりそうです。

もちろん、これは、今問題になっている地下水とか海とかのことは全く考えていないはなしです。

広島の原爆と比較した場合、核分裂せずにちりぢりになった大部分のウランをどう考えたらいいのかがわかりませんが、燃料の 0.1 % が大気に放出されたら 7.7kg 、1% で 77kg になるので、まあ、そんなところです(どんなところだ?)。

これ以外に使用済燃料があります。水素爆発で建屋が損傷してプールの水が見えてしまう状態になったのを、普通、「無事」とは言いません。 http://www.meti.go.jp/press/20110317008/20110317008-4.pdf

平成22年度第3四半期末、え〜っと、つまり2010年12月末の時点で、

新燃料以外 / 新燃料

1号機 292 / 100 体
2号機 587 / 28 体
3号機 514 / 52 体
4号機 1,331 / 204 体

これって、集合体の本数?それとも燃料棒の本数? ネット上の報道記事をいくつか見る限り、集合体の本数のようです。そもそも、燃料棒だとすると少なすぎます。例えば 2号機で新燃料 28体ですが、これでは、集合体 1本分になりません。そんな中途半端な数を扱うわけがないです。というわけで、以下、集合体と仮定して計算します。

上記の「設備の概要」から計算すると、燃料集合体 1本当たり 172 kg です。かけ算すると、次のようになります。

1号機 67,424 kg
2号機 105,780 kg
3号機 97,352 kg
4号機 264,020 kg

合計 532.5 t

ウラン235はこの 3% で 16 t

プールのウランは炉内の燃料の 2倍以上、チェルノブイリの 4倍強になります。水をかけ続けていれば安全なのだろうと思いますが、なにがなんでも再臨界とかしてもらっては困ります。特に、一番たくさん置いてある 4号機。