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小沢一郎「日本改造計画」を読み直す

Update: 2010-04-06

田中角栄の「日本列島改造論」を彷彿とさせる表題のこの本で、著者はさまざまな具体的な構想を提示しています。その中で、少なくとも政治制度改革については、今もおおむね変わらぬ姿で民主党政権において実現されようとしています。もっとも、世の人が評するとおり著者が「ぶれない人」であるとすると、現状 (2010年4月) の民主党政権はまだまだ不十分なものだということになります。

著者にとって政治制度改革は、それ自体が目的となるものではありません。日本の政治の最も重要な課題を達成するための手段です。

この本は、1993年5月に出版されました。新生党が発足する直前のことです。また、1990年の株価暴落、円高、それに前後して始まったバブルの崩壊が進む最中のことです。そして、1991年に湾岸戦争が終わり、ソ連が崩壊し、その少し前の1989・1990年には日米構造協議が行われました。世界においても、日米間においても、米国の強い意志が示されたときです。著者は、その時点において、その意志に応えることを政治家としての第一の使命としていたようです。

全体として、この本に書き記されたことは、今、あらためて読み直してみる価値のあるものでした。私が最初に読んだのは1993年の出版の直後、おそらくその年の7月か8月のことです。そのときに私が抱いた畏怖の念は、再読した後もかわらず持ち続けています。

1. 経済大国の責任を果たすための政治改革

著者は、外交のための意志決定ができるようになることを日本の政治の主要な課題としています。

日本が外交の場でできなかったことは、湾岸戦争への協力です。日本は、米国とあわせたGNPで世界の半分近くを占める経済大国でありながら、国際社会への責任を果たすことができませんでした。「金」による協力は高く付いたかもしれません。しかし、それは米国自身の負担に比べればずいぶん少ないものです。さらに、それは「人」による協力ができなかったことの代償とするには全く不十分でした。そのため、日本は、湾岸戦争における米国の同盟28カ国には入れてもらえませんでした。

その失敗の原因は日本の政治風土です。

著者は、政治において「保護・管理政策」と「自己責任の原則」が対峙していると考えます。戦前の軍部の支配から現在に至るまで「保護・管理政策」の時代が続いているとします。それは、戦後の吉田内閣などをのぞき、おおむね、意志決定の過程が不明確でリーダーシップが欠如した時代です。これに対置する「自己責任の原則」による政治は、議院内閣制による政党政治です。

議院内閣制とは、与党と内閣が一体となった、「ほとんど万能に近い権力を握っているはず」の政治制度です。しかし現状の議院内閣制は有効に機能していません。

政府・与党においては官僚、族議員、派閥、政調会などのあり方が権力を分散する要因となっています。政策決定は、官庁ベースと与党ベースの二つの流れがあります。これらを内閣が統括できないことが、意志決定の課程を不明確なものにしています。

与野党の関係も緊張感を欠いています。野党でも一人は必ず当選する中選挙区制が与党になる気のない政党を温存します。審議時間が短いことなどを利用して少数政党が拒否権を持つことにより、裏舞台で与野党が譲歩し合って決着する全会一致が普通のこととなっています。その最悪のものが全員一致による国会決議で、一度決めてしまうと容易に取り消すことができません。

このような政治風土が、例えば、「世界の常識からいえばPKO参加の道を閉ざすような」PKO協力法案を生み出してしまったとしています。

2. 強力な内閣

著者は、英国をモデルとして、与党と内閣を次のような体制とすることを提案します。

野党にも、影の内閣を組織させます。それには公費を充て、国会の職員をスタッフとします。

内閣や首相官邸については、政調会を廃止し、官房長官が政府の見解を発表することもやめて、次のような体制強化を図ります。

補佐官は、国務大臣として閣議に出席します。政府の見解は官房長官にとってかわる首席補佐官ではなく首相自身が述べ、それを企画補佐官がサポートします。

外政に分かれている審議室を統一するのは、「国際化の中では内政と外政は表裏一体、不即不離の関係にあり、どの問題も国内問題であると同時に対外問題という状態になっている」からです。例えば経済について、日米構造協議では「日本の流通面の閉鎖性を指摘され、大規模小売店舗法の改正が行われた」のですが、このような施策を外圧によらず自主的に行うべきであるとしています。

強力な内閣の構想について書かれた文章を見る限り、基本的に与党は一つの政党で構成されるようです。この構想を是とする場合、連立与党は意志決定の統一を阻害すると考えるのが自然でしょう。現政権で問題となった与党議員による議員立法については言及していませんが、必要ないし、与党と内閣が一体となるべき意志決定の過程から外れたところで行われるのであれば有害だということになるでしょう。

3. 小選挙区制と政党への公的助成

小選挙区制の目的は、前述の中選挙区制の弊害を除くためです。比例代表は中選挙区制よりもさらによくない制度です。政党への公的助成を導入する理由は、企業・団体献金を政党に限るといった制限を設けた場合、政治資金が足りなくなるからです。それを補うために年間に約一千億円程度が必要になります。さらに、無所属で国会議員に立候補する道を閉ざすとしています。

参考:2010年度の政党交付金予定額 より

民主党 172億9700万円
自民党 103億7500万円
公明党  23億8900万円
社民党   8億6400万円
国民新党  3億9700万円
みんなの党 3億6100万円
改革クラブ 1億2000万円
新党日本  1億3500万円
合計 約320億円

政党内における候補者の選定の手順についてもいくつか言及していますが、その中で、公職選挙法の対象にできないという理由で予備選挙については否定的な見解を示しています。

4. 身軽な中央政府と地方分権

著者は、強力な内閣をつくる一方で、政府の権力を二つの面で制限すべきであるとしています。時間の面では、政権交代を実行します。空間の面では、国家レベルの課題に集中し、それ以外の権限は地方に託します。

地方自治体は、国から委譲された権限に耐えうる体力が必要です。都道府県と市区町村の二階層である地方自治体は、一階層の基礎自治体に再編し、その数は300程度とします。それぞれの基礎自治体は、職住、農工、生産と消費などの補完関係にあるものを内包します。それにより、できるだけ均質な基礎自治体を創ります。

東京への一極集中を廃し、公共投資により内需を拡大するための施策は次の通りです。

交通網の整備の具体的な姿として全国の図を掲載しています。構想の中には、豊予海峡(九州・四国間)の橋を含みます。そこに新幹線と高速道路を通すことになっています。私は、その東側である愛媛県の出身なのですが、何度見ても気が遠くなる絵です。

これらのために必要な費用は約200兆円です。そのための財源が必要です。著者が考える「身軽な中央政府」は「小さな政府」とはかなり様相が異なるものです。

5. 税制

個人を大切にする社会の実現のために、所得税と住民税を半分にします。

国際間の経済取引に中立的なものとするために、法人税や資産課税は下げなければなりません。法人税率を世界の最低水準にします。

これらの減税と、公共投資のための財源として、消費税を10%にします。景気が悪い場合、消費税率の引き上げは後回しでもかまいません。それまでの歳入不足は赤字国債で補います。「財源のアテのある赤字国債なので問題はあるまい」とのことです。景気対策のために大量の赤字国債を発行する今の状況に照らして読むと、背筋に冷たいものを感じます。

地方のための内需拡大策は基本的に「ハコ」もので、国家レベルの医療、福祉、教育など「人」にかかわる歳出を増やすことは考えていないように見えます。これらの国民にとって身近な行政は基本的に地方に任されます。

法人税には大なたを振るいますが、社会保障費の企業の負担については言及されていないようです。企業が赤字でも免除されない大きな負担であるのに、現在の法人税軽減の主張でも無視されることが多いように思います。

6. 国連待機軍

著者が考える国連待機軍の構想を要約すると、米国と一体となった国連に無条件で提供する武力です。

日本が国連の中で果たす役割について論じるにあたって、前提条件があると著者は述べています。「第一は、国連を改革してより協力にすること」、「第二は、唯一の超大国であるアメリカが積極的に国連の舞台を活用し、国連と一体となって活動すること」です。米国を孤立主義に追い込み、国連を弱体化させることは「日本の外交の破綻」です。それはともかく、少なくとも、著者の構想の破綻となります。

著者の現状認識は次のようになります。

日本の周辺諸国は日本の単独行動を警戒している 米国は世界の平和維持に積極的である

そこから導き出される方針は、「日本がアメリカの協力して新しい世界秩序の構築に積極的に参画する」ことです。そのため、「専守防衛戦略」を前提とする自衛隊を再編し、「平和創出戦略」に転換することが必要です。

しかしながら「日本独自の判断による海外での武力行使」は憲法第九条が禁じている国権の発動となってしまいます。この矛盾を解決するために国連待機軍を持ちます。その際、憲法上の制約、国民のアレルギー、アジア諸国の抵抗感を考慮し、次の形にするのがよいとしています。

自衛隊と国連待機軍は別に組織する 国連待機軍の識見は完全に放棄し、国連事務総長の指揮下に置く

7. その他

これらの内容以外に、

基本的な方針の延長、または、保守一般の立場を示すもの

言及されてないか、もしくは、民主党の方針とは断絶しており、著者にとって重要ではないと思われるもの

その後情勢が変わったことによりいくぶん方針を修正したと思われるもの

実現されたこと

などがあります。これらについては省略します。

最初に読んだときと変わらず私が思うことは、著者は、少なくともこの本を記した時点の著者は、

あ・め・り・か・の・て・さ・き

だということです。

以上終わり。